Column
空気と換気のコラム

坂本 雄三 先生

6.これから(ウィズコロナ時代)の空調・換気システム その②:YUCACOシステム

2022/08/18

YUCACOシステム

 

 住宅の全館空調システムの一つとしてYUCACOシステムを簡単に紹介します。今や住宅の全館空調システムには沢山の提案や商品が見られますので、その一つ一つに対してコメントするのは不可能です。そこで、筆者と最も関係の深いYUCACOシステムを取り上げ、その特徴や特長を示します。
 筆者は、これからの全館空調システムに必要な要件を以下のように考えています。もちろん、YUCACOシステムはこれらの要件を満たすシステムであります。
 

全館連続暖冷房を行っても電気代が嵩まないようにするために、外皮は高断熱・高気密・高日射遮蔽の仕様にする(判断の目安を表1に掲載)。
 
建物の断熱区画の内部に空調ユニット(エアコンなどを設置するスペース)を必ず設け、ユニット内部において、各室に供給すべき空気の温度調整と除湿(エアコンの除湿機能でよい)、空気清浄(空気清浄機による)を行うほか、全熱交換換気装置から新鮮外気(熱回収によって温湿度は室内温湿度に近づいている)を供給される。なお、加湿器は供給空気の温度低下を避けるため、空調ユニットには設置せず、居室等に設置する。
 
建物内部ができる限り均一な空気環境になるように空調吹出口を分散して配置し、建物内部の空気が常に空調ユニットとの間で循環するように空気の循環経路を確保する。
 
暖房時の快適性を向上させるために、居間などは床チャンバーを設け、床吹出で空調する(これが “YUCACO” の名前の由来である)。
 
小型の省エネ送風ファンを用いて、建物内部の空気が常に循環するように大風量・小温度差の設定で空調運転を行う。ここで大風量とは延べ床面積あたりで10~25m3/hの風量のことを言っている。また小温度差とは空調ユニット内部の平均温度と実現される室温との温度差が±2~4度の範囲であることを指している。大風量・小温度差で空調するメリットは、暖冷房負荷がごく小さい時でも、室内温度が空調ユニット内の温度とあまり変わらない温度に維持されるので、室温制御のための装置(風量制御など)が不要になり価格が安くなることにある。また、それによってシステム全体が単純になるので、設計施工の失敗なども避けられるのである。


表1 YUCACOシステムにおいて必要とされる建物外皮性能に関する目安
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 YUCACOシステムの概念図を図5に示します。これはYUCACOシステム第一号の三鷹I邸をモデルとした概念図ですので、現在よく見られるようなYUCACOシステムとは送風ファンの設置場所などが異なるかもしれません。現在のものは送風ファンがすべて空調ユニット内に設置されている場合が多いと思われます。図6は、YUCACOシステムにおいて必要となる機器や部品の写真です。


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図5 YUCACOシステムの概念図

 

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図6 YUCACOシステムで使用される主な機器と部品の写真
(上段は左から、壁掛エアコン、全熱交換換気装置、電子式空気清浄ユニット。下段は左から、小型省エネ送風ファン、床吹出口(木製))

 
 YUCACOシステムは、他の全館空調システムと比較すると、空調風量が多めですので送風ファンの台数が多いという特徴があります。しかし、それによって、建物内部が均一な空気環境になり(図4(コラム第5回参照)図5を参照)、かつ、室温制御装置が不要になるという特長が生まれるのです(上記参照)。また、図6に示されるように、YUCACOシステムで使われる機器や部品は、壁掛エアコンに代表されるように、誰でもが購入できる汎用的な製品や商品であります。ですから、システムの一部の機器や部位が故障や破損しても、代替の機器や部品を容易に入手して交換することができます。もともとYUCACOシステムは、中小のビルダーでも設計・施工できるようなシステムという趣旨で企画・開発されていますので、特殊の機器や部品は使用されていません。ですから、建物の寿命が尽きるまで使用できる長寿命の設備システムであり、「良い暮らし」を提供するだけでなく、カーボンニュートラルにも貢献するシステムであると考えています。

 

(おわり)

 


■講師ご紹介

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東京大学名誉教授

坂本 雄三 先生

専門は建築環境工学。1948年、札幌市生まれ。北海道大学卒業後、東京大学大学院博士課程を修了。建設省建築研究所・研究員、名古屋大学・助教授、東京大学・助教授を経て、1997年に東京大学・教授に就任。2012年に東京大学を退職し、国立研究開発法人・建築研究所・理事長に就任、2017年まで勤める。国土交通省、経済産業省、東京都などにおける審議会や委員会の委員を歴任。中でも、建築・住宅の省エネルギー基準の制定やZEH・ZEBのオーソライズにおいては委員長を務め、それらの成立に尽力した。また、空気調和・衛生工学会の会長も2010年から2年間務めた。主な著書として、『省エネ・温暖化対策の処方箋』(日経BP企画,2006)、『建築熱環境』(東京大学出版会,2011)。

 

■坂本雄三先生コラム一覧

1.コロナ禍による換気の再認識 その①:コロナ禍と対策レビュー

2.コロナ禍による換気の再認識 その②:換気の効用と役割

3.空調・換気の目標(室内環境基準)その①:法令で定めた空調・換気の目標

4.空調・換気の目標(室内環境基準)その②:空調・換気の目標を達成するための技術と手段

5.これから(ウィズコロナ時代)の空調・換気システム その①:全館空調のための「序論」

6.これから(ウィズコロナ時代)の空調・換気システム その②:YUCACOシステム

 

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