Column
空気と換気のコラム
松尾 和也 先生
2.小屋裏エアコンの導入と改良
2024/11/15
小屋裏エアコンをはじめたのは2010年ごろだったと思います。当初、小屋裏エアコン冷房の対象空間は2階だけでした。1階は床置タイプのエアコンを半埋込し、暖房時は床下50%、床上50%吹出し、冷房時は床上100%吹出しと使い分けられる機種を選定していました。冬は温暖な代わりに、夏の暑さが厳しい関西においてはちょうど相性が良かったこと、小屋裏エアコンの技術レベルも低かったことからしばらくこのやりかたが続きました。
床下エアコン暖房をはじめたころ、冬は家全体が暖かくなるのですが、夏は1階と2階はエアコンを設置している部屋だけが涼しくなるという状況でした。数年経過して子供さんが各居室を使うようになると、結局子ども部屋にもエアコンをつけている実態を見ていました。「これではいけない」と思ったこと。だからといって各居室にエアコンを設置するには設置時の費用もそれなりにかかりますし、室外機、冷媒配管が外観デザインを汚します。また各部屋のエアコンを稼働させると1台で冷房するのに比べると燃費が相当悪化することも分かっていました。さらにいうと、あとから分かったことではあるのですが、各部屋で冷房運転すると温度はしっかり下がるのですが、湿度は逆に下がりにくくなるということも分かりました。これは各部屋で冷房を稼働させると1台あたりのエアコンへの冷房負荷が小さくなりすぎてしまいます。結果として冷媒の温度をそれほど下げる必要がなくなってしまいます。結果として結露させる能力が弱くなってしまうことから湿度が下がりにくくなるという理屈です。
1階は床置きタイプのエアコンを使う時期が数年続きました。ただこの機種は2005年頃にはすでに発売されており、それから一度もフルモデルチェンジされていません。ですのでAPF(効率)も最新型のエアコンより悪く、また冷暖房を兼用出来る代わりに、床下に吹き出す暖気の量が半分でしかないため、エアコンから遠い場所まで床下を暖かくすることは難しいという欠点がありました。そこで、西方先生と同じく、低燃費な最新型のエアコンで暖気を隅々まで送りたいと思うようになりました。しかし、これを実現するためには小屋裏エアコンで1階まで冷房する必要がありました。そこで小屋裏エアコンを改良する必要に迫られました。
1階も含めた小屋裏エアコンは、最初色々と失敗しました。しかしながら、小屋裏に設置してあることから、設置後の調整は色々としやすい特性がありました。ですので、すべての住宅においてきちんと効くまで調整することでどんどん経験値が上がっていきました。計算では冷房負荷より冷房能力が上回るように検討していても、どうしても計算通りにいかない部分もありました。そのあたりを現地での調整で対応するうちに、どの程度の余裕を見込んでおけばいいのかという勘所もついてきました。
こうして効かせることは問題なくなりました。しかし、次の問題が起こり始めました。時々ですが、エアコンが詰まって水が漏れるという事象があったのです。これは当社だけではなく、普通の壁掛けエアコン、または全館空調でもよく聞く話です。夏が猛暑化したことによりエアコンの負荷が増えたことも一因であると考えています。普通の壁掛けエアコンであれば、漏れたらすぐ気づくのですが、小屋裏の場合、相当量漏れてから気づくという欠点がありました。そこで、今では万が一のときのために、防水パンと、漏水検知センサーを設置しています。それ以上に、エアコンが詰まる原因はエアコン内部に発生するスライム状の物質であることが多いので、それが発生しにくい根本的な対策として「小屋裏エアコンVer2」を開発するに至りました。これはエアコン本体にゴミが極めて入りにくいこと。またエアコン内部の仕組みにおいて、根本的にカビが生えづらい、ホコリやカビの胞子が入りにくいしくみになっていることが特徴です。
最後に、当社ではあまり起こっていないのですが、田舎で施工する工務店さんに多いのが2,3年でエアコンからガス漏れがあるという現象です。これに対応すること。そしてもうひとつクリアしたいことがありました。それが夏の湿度を出来れば「26℃でも50%くらいまで下げたい」ということでした。湿度をこのレベルまで下げられると、どこのご家族でもありがちな「俺には冷房が物足りない。私には寒すぎる」という冷房の設定温度の好みの差から生じる不満(けんか)を少しでも減らせると考えたからです。この2つを解消するために考えたのがVer3となります。ゴミが入りにくい。根本的にカビが生えにくい内部構造になっていることはVer2と同じです。

相当数のリサーチの結果、唯一ガス漏れの事例がほとんど聞かれない機種を選定したこと。水洗いできてフィルター交換が必要ない電気集塵式の空気清浄機、トルネックスを組み合わせたことも特徴です。外部からの空気も室内を循環させる空気もトルネックスを経てからエアコンに入ります。よってエアコンにはほとんどゴミが入りません。また家中の空気が清浄されることになるので各部屋に空気清浄機が必要ありません。各部屋に空気清浄機を設置するのは費用的に難しいと思います。また各部屋に設置して本来の清浄機能を発揮しようとすると、かなりうるさいレベルまで強度を上げる必要がありました。トルネックスは無音なので、音の問題も皆無です。

最後にVer3はドライバーが使える人であればドレンパン、ファンに至るまで電気部品をさわらなくても解体清掃することが出来ます。冷房で使う限りエアコン内部はカビと共存していると考えて間違いありません。それを自分で掃除できるということは非常に大きいメリットだと考えています。
(おわり)
株式会社松尾設計室 一級建築士事務所 代表取締役
1975年兵庫県生まれ。1998年九州大学工学部建築学科卒業(熱環境工専攻)。エスバイエルホーム、瀬戸本淳建築研究室、プレストを経て、2003年松尾設計室に入社。工務店を対象者に過去5年で300回以上の講演や技術指導を実施。フォロワー7万人超のYouTubeチャンネル「松尾設計室」を配信。
■松尾和也先生コラム一覧
※当コラムや画像等及びその内容に関する諸権利は、原則として株式会社トルネックスに帰属します。また、一部の画像・イラスト等の著作権は、原著作者が所有していますので、これらの無断使用、転載、二次利用を禁止いたします。
電話受付 9:00~17:30 ※土日祝を除く

お問い合わせ
フォームが表示されるまでしばらくお待ち下さい。
恐れ入りますが、しばらくお待ちいただいてもフォームが表示されない場合は、こちらまでお問い合わせください。
- 松尾 和也先生コラム
- 全館空調の歩みと最新技術
-
2024.11.15
2.小屋裏エアコンの導入と改良 -
2024.11.15
1.床下エアコン暖房の歴史と発展
- 坂本 雄三先生コラム
- ウィズコロナの時代、家づくりにおける注意点
-
2022.08.18
6.これから(ウィズコロナ時代)の空調・換気システム その②:YUCACOシステム -
2022.08.03
5.これから(ウィズコロナ時代)の空調・換気システム その①:全館空調のための「序論」 -
2022.07.14
4.空調・換気の目標(室内環境基準)その②:空調・換気の目標を達成するための技術と手段 -
2022.06.30
3.空調・換気の目標(室内環境基準)その①:法令で定めた空調・換気の目標 -
2022.06.17
2.コロナ禍による換気の再認識 その②:換気の効用と役割 -
2022.06.02
1.コロナ禍による換気の再認識 その①:コロナ禍と対策レビュー
- 鍵 直樹 先生コラム
- ウィズコロナ時代に備えるための室内空気環境とは
-
2022.04.22
6.空気清浄機のフィルタの有効性について その② -
2022.04.08
5.空気清浄機のフィルタの有効性について その① -
2022.03.25
4.対策方法について その② -
2022.03.15
3.対策方法について その① -
2022.01.28
2.室内空気質と新型コロナウイルス感染症について その② -
2022.01.14
1.室内空気質と新型コロナウイルス感染症について その①
- 安達 修一 先生コラム
- ウイルスと健康のおはなし
-
2020.12.24
4.良い換気で感染を予防 -
2020.09.23
3.呼吸器の防御の仕組みと感染の予防 -
2020.08.27
2.空気で運ばれる病原体 -
2020.08.06
1.病原体と空気 - PM2.5による健康被害について
-
2017.07.26
6.健康に暮らすための空気の重要性 -
2017.06.29
5.PM2.5等の大気汚染から身を守るために -
2017.06.01
4.PM2.5の影響を受けやすい人 -
2017.05.11
3.PM2.5による健康影響 -
2017.04.25
2.PM2.5は呼吸で全身に侵入 -
2017.03.31
1.大気汚染はいつどこで起こるの?
- 矢口 貴志 先生コラム
- お家に潜む、見えないカビと健康のお話
-
2020.06.08
6.カビを増やさないための対策方法 その② -
2020.03.16
5.カビを増やさないための対策方法 その① -
2020.01.28
4.カビが原因で起こる健康影響や生活への影響 その② -
2019.12.16
3.カビが原因で起こる健康影響や生活への影響 その① -
2019.11.27
2.カビの基礎知識 その②:こんなところにもカビ? -
2019.11.08
1.カビの基礎知識 その①:カビってなんだろう?
- 丸谷 博男 先生コラム
- 健康と快適の素「空気と水」
-
2019.03.11
6.換気とはなんだろう -
2018.12.28
5.設備を活用して空気質をコントロールする仕組み -
2018.10.11
4.住まいの壁体内と室内の健康、そして気密・透湿・透気をつくる -
2018.08.23
3.高気密高断熱住宅の落とし穴 -
2018.08.09
2.湿気と健康 -
2018.07.24
1.空気質と健康
- 南 雄三 先生コラム
- 正しい換気と空気の関係
-
2015.02.26
6.換気はメンテが命 -
2015.02.10
5.必要な換気量 -
2015.01.21
4.必要な気密性 -
2015.01.07
3.計画換気の原則 -
2014.12.17
2.換気の目的と気密 -
2014.11.26
1.空気がきれいなのは内・外どっち?
- 井上 浩義 先生コラム
- ここまでわかったPM2.5 本当の恐怖
-
2015.06.01
6.PM2.5時事解説 -
2015.05.12
5.PM2.5から身を守るために(マスクのような繊維状フィルタの効果は?) -
2015.04.28
4.地域で異なる発生源 -
2015.04.28
3.PM2.5の発生メカニズム、発生状況(今後も続くPM2.5) -
2015.04.02
2.PM2.5による健康被害について -
2015.03.17
1.大気汚染の歴史から現在の汚染状況
- 坂本 弘志 先生コラム
- 快適な室内環境を実現するには
-
2016.05.19
6.外気清浄機を有する第2種換気の実現に当たっては -
2016.04.07
5.第3種換気で知っておきたいことは -
2016.03.15
4.第1種換気で知っておきたいことは -
2016.03.01
3.シックハウス問題は解決したか -
2016.02.16
2.VOCの測定から見た室内空気環境は -
2016.02.03
1.現在の換気設備が抱える問題点とは
- 福島 明 先生コラム
- 換気システムの課題とこれからの住宅換気
-
2017.11.28
6.暖房・冷房と換気 -
2017.09.07
5.自然換気という選択 -
2017.08.09
4.熱交換はお得か? -
2017.01.26
3.換気装置の維持管理 -
2016.11.28
2.24時間換気装置は働いているか?-換気装置が働かない訳- -
2016.08.03
1.空気環境の安全性
- トルネックス技術部コラム
- 本当の空気清浄能力って?
-
2016.06.08
4.フィルタの捕集効率の表し方の違いについて -
2016.02.02
3.外気の取り入れに使うフィルタに必要なこと -
2015.09.25
2.一般的にはどんな種類のフィルタがあるの? -
2015.07.16
1.フィルタって何?
- カスタマーサービス部コラム
- 外気清浄機を長く安心して使っていただくために
-
2018.07.24
吸引力を維持するために必要なこと、フィルタはいつもキレイが鉄則