Column
空気と換気のコラム
松尾 和也 先生
1.床下エアコン暖房の歴史と発展
2024/11/15
大学時代にはOMソーラーの研究を行っていました。また独立前にはOMソーラーの加盟工務店にいました。その関係上、基礎断熱で床下に温風を流すということが自分の中で最初から常識となっていました。OMソーラーでは太陽による集熱が足りないときのために補助暖房が必要でした。当時は温水ラジエーター等を使っていましたが、複雑でコストも高いものでした。それをエアコンに入れ替えればイニシャル、ランニングともに安くなるだろうと考えたことがことの発端でした。ちょうど同じ頃、秋田県の西方先生も床下エアコン暖房に取り組み始めておられました。西方先生は壁掛けエアコンを床下に埋め込んでおられました。私は冷房も兼用したかったので床置きエアコンを半埋込する形でやりはじめました。当時は西方式、とか松尾式と分類されることもあるくらいになりました。いずれにしても1台のエアコンでトイレや脱衣室、玄関、廊下まで簡単かつ、安く暖かく出来ることから瞬く間に全国に真似をする工務店が増えていきました。
床下エアコンにはいくつかメリットがあります。時代の背景としてリビング階段、吹抜けが増えつつありました。断熱、気密も徐々に向上してきたのですが、それでもやはり大半の住宅において暖房が上に抜けてしまって1階及びその床が温まりにくいという事例が非常に多く見られました。床下エアコン暖房の登場によって、設置した住宅については問題解消することができました。

従来、間仕切りの向こう側まで暖房しようと思うとダクトが必要でした。そうするとダクトの設計、施工と面倒な事が増えてしまいます。面倒なことはコスト増でもありました。床下エアコン暖房は床下空間をチャンバーとして利用するのでダクトが不要である点も重宝されました。
それと同時に、住宅業界ではリビング階段、及びリビング吹抜が多くなってきた時期でもありました。従来はリビング階段、吹抜けをつけると暖房の効きが悪くなる厄介者でした。しかし、床下エアコン暖房にとってはむしろ上下温度差を少なくする手法というメリットのほうが強くなりました。実際、リビング階段だけだと上下温度差が2℃、リビング吹抜けがあれば1℃(下左の図)、吹抜けもリビング階段も両方ない場合は4℃差(下右の図)というのが過去に多数の住宅を設計した上での経験値です。

さらに床下エアコンにはメリットがありました。基礎断熱は1年目にどれだけ水分を飛ばせるかが非常に重要でした。床下エアコン暖房では熱を加えることによって水分が早く蒸発することが出来ます。また、通常2階のほうが1階に比べて面積は小さいです。1階をすべて暖房すれば、吹抜けのように空気が直接2階に流れなくても、断熱材を施工していない1階天井を貫通する形でも熱は上に伝わります。その結果2階床はほぼ全面、かなり弱めの床暖房のような状態にもなります。1階床が暖かい(冷たくない)のはもちろんですが、床暖房ほどの高温にはなりません。ですので無垢のフローリングがそのまま利用出来るのも普及に大きく貢献した理由の一つです。

最後に暮らし方との相性です。大半の日本人は寝る前までLDKで過ごします。寝るときだけ寝室に行くパターンが多いです。睡眠時でプライバシーが必要な時以外は2階各部屋のドアを開けていれば暖気が2階の各部屋まで回ります。そして、プライバシーが必要でドアを閉めるときには布団をかぶって寝るので、多少室温が下がっても問題ありません。それどころか睡眠に理想的な室温はLDKの理想的な室温である20℃以上に比べて若干低い18℃程度と言われています。このような様々な側面が重なり合った結果、床下エアコンは日本中の工務店に爆発的に普及したのだと考えています。
(つづく)
株式会社松尾設計室 一級建築士事務所 代表取締役
1975年兵庫県生まれ。1998年九州大学工学部建築学科卒業(熱環境工専攻)。エスバイエルホーム、瀬戸本淳建築研究室、プレストを経て、2003年松尾設計室に入社。工務店を対象者に過去5年で300回以上の講演や技術指導を実施。フォロワー7万人超のYouTubeチャンネル「松尾設計室」を配信。
■松尾和也先生コラム一覧
※当コラムや画像等及びその内容に関する諸権利は、原則として株式会社トルネックスに帰属します。また、一部の画像・イラスト等の著作権は、原著作者が所有していますので、これらの無断使用、転載、二次利用を禁止いたします。
電話受付 9:00~17:30 ※土日祝を除く

お問い合わせ
フォームが表示されるまでしばらくお待ち下さい。
恐れ入りますが、しばらくお待ちいただいてもフォームが表示されない場合は、こちらまでお問い合わせください。
- 松尾 和也先生コラム
- 全館空調の歩みと最新技術
-
2024.11.15
2.小屋裏エアコンの導入と改良 -
2024.11.15
1.床下エアコン暖房の歴史と発展
- 坂本 雄三先生コラム
- ウィズコロナの時代、家づくりにおける注意点
-
2022.08.18
6.これから(ウィズコロナ時代)の空調・換気システム その②:YUCACOシステム -
2022.08.03
5.これから(ウィズコロナ時代)の空調・換気システム その①:全館空調のための「序論」 -
2022.07.14
4.空調・換気の目標(室内環境基準)その②:空調・換気の目標を達成するための技術と手段 -
2022.06.30
3.空調・換気の目標(室内環境基準)その①:法令で定めた空調・換気の目標 -
2022.06.17
2.コロナ禍による換気の再認識 その②:換気の効用と役割 -
2022.06.02
1.コロナ禍による換気の再認識 その①:コロナ禍と対策レビュー
- 鍵 直樹 先生コラム
- ウィズコロナ時代に備えるための室内空気環境とは
-
2022.04.22
6.空気清浄機のフィルタの有効性について その② -
2022.04.08
5.空気清浄機のフィルタの有効性について その① -
2022.03.25
4.対策方法について その② -
2022.03.15
3.対策方法について その① -
2022.01.28
2.室内空気質と新型コロナウイルス感染症について その② -
2022.01.14
1.室内空気質と新型コロナウイルス感染症について その①
- 安達 修一 先生コラム
- ウイルスと健康のおはなし
-
2020.12.24
4.良い換気で感染を予防 -
2020.09.23
3.呼吸器の防御の仕組みと感染の予防 -
2020.08.27
2.空気で運ばれる病原体 -
2020.08.06
1.病原体と空気 - PM2.5による健康被害について
-
2017.07.26
6.健康に暮らすための空気の重要性 -
2017.06.29
5.PM2.5等の大気汚染から身を守るために -
2017.06.01
4.PM2.5の影響を受けやすい人 -
2017.05.11
3.PM2.5による健康影響 -
2017.04.25
2.PM2.5は呼吸で全身に侵入 -
2017.03.31
1.大気汚染はいつどこで起こるの?
- 矢口 貴志 先生コラム
- お家に潜む、見えないカビと健康のお話
-
2020.06.08
6.カビを増やさないための対策方法 その② -
2020.03.16
5.カビを増やさないための対策方法 その① -
2020.01.28
4.カビが原因で起こる健康影響や生活への影響 その② -
2019.12.16
3.カビが原因で起こる健康影響や生活への影響 その① -
2019.11.27
2.カビの基礎知識 その②:こんなところにもカビ? -
2019.11.08
1.カビの基礎知識 その①:カビってなんだろう?
- 丸谷 博男 先生コラム
- 健康と快適の素「空気と水」
-
2019.03.11
6.換気とはなんだろう -
2018.12.28
5.設備を活用して空気質をコントロールする仕組み -
2018.10.11
4.住まいの壁体内と室内の健康、そして気密・透湿・透気をつくる -
2018.08.23
3.高気密高断熱住宅の落とし穴 -
2018.08.09
2.湿気と健康 -
2018.07.24
1.空気質と健康
- 南 雄三 先生コラム
- 正しい換気と空気の関係
-
2015.02.26
6.換気はメンテが命 -
2015.02.10
5.必要な換気量 -
2015.01.21
4.必要な気密性 -
2015.01.07
3.計画換気の原則 -
2014.12.17
2.換気の目的と気密 -
2014.11.26
1.空気がきれいなのは内・外どっち?
- 井上 浩義 先生コラム
- ここまでわかったPM2.5 本当の恐怖
-
2015.06.01
6.PM2.5時事解説 -
2015.05.12
5.PM2.5から身を守るために(マスクのような繊維状フィルタの効果は?) -
2015.04.28
4.地域で異なる発生源 -
2015.04.28
3.PM2.5の発生メカニズム、発生状況(今後も続くPM2.5) -
2015.04.02
2.PM2.5による健康被害について -
2015.03.17
1.大気汚染の歴史から現在の汚染状況
- 坂本 弘志 先生コラム
- 快適な室内環境を実現するには
-
2016.05.19
6.外気清浄機を有する第2種換気の実現に当たっては -
2016.04.07
5.第3種換気で知っておきたいことは -
2016.03.15
4.第1種換気で知っておきたいことは -
2016.03.01
3.シックハウス問題は解決したか -
2016.02.16
2.VOCの測定から見た室内空気環境は -
2016.02.03
1.現在の換気設備が抱える問題点とは
- 福島 明 先生コラム
- 換気システムの課題とこれからの住宅換気
-
2017.11.28
6.暖房・冷房と換気 -
2017.09.07
5.自然換気という選択 -
2017.08.09
4.熱交換はお得か? -
2017.01.26
3.換気装置の維持管理 -
2016.11.28
2.24時間換気装置は働いているか?-換気装置が働かない訳- -
2016.08.03
1.空気環境の安全性
- トルネックス技術部コラム
- 本当の空気清浄能力って?
-
2016.06.08
4.フィルタの捕集効率の表し方の違いについて -
2016.02.02
3.外気の取り入れに使うフィルタに必要なこと -
2015.09.25
2.一般的にはどんな種類のフィルタがあるの? -
2015.07.16
1.フィルタって何?
- カスタマーサービス部コラム
- 外気清浄機を長く安心して使っていただくために
-
2018.07.24
吸引力を維持するために必要なこと、フィルタはいつもキレイが鉄則