Column
空気と換気のコラム
丸谷 博男 先生
2.湿気と健康
2018/08/09
この連載は、空気と水の話から「健康な住宅建築と室内環境を形成して行く」一連のお話となります。
一歩一歩の探求をご期待ください。
潤いのある肌、保湿は女性方の関心事
その関心を 住まいにも向けてみましょう
潤いのある室内環境 それができたらなんと素晴らしいことでしょうか
安易に普及しすぎたエアコン
夏は 湿気の多い空気を冷やすので 湿度は高くなるばかり
冬は 乾燥した空気を温めるので 湿度は低く過乾燥になります
そして 室内の仕上げ材は ビニルクロスの天井と壁、樹脂塗装の合板フローリング、あるいは塩ビシートの床
これでは 調湿できるわけがありません
これって典型的な 建売住宅・マンションの室内環境ですね
壁の断熱材も ガラス繊維か発泡樹脂 これも調湿しません
木組みの家 それに土壁と無垢板の床 そして畳 昔の家は調湿力抜群でした
マンションの便利さを求め 身体に厳しい環境を甘受している現代日本人に 朗報を差し上げます
ついつい高気密高断熱の家の悪口を言ってしまいますが、その理由は総合的な家づくりになっていないということなのです。よく湿気のコントロールが大事だという時に引き合いに出されるのがアメリカ暖房冷凍空調学会のグラフ「相対湿度と微生物等との相関関係」があります。このグラフを見ると、「なんて人間に好都合にできているのだろう」と感心してしまいます。
私はそこでよく冗談半分に説明しています。
「このグラフでは相対湿度40~60%のところがもっとも人間が生息繁殖しやすいエポックがあります。おそらく、もっと高乾燥が好きだった人類やもっと湿潤な環境の方が好きだった人類もいたと思うのですが、結局最も繁殖した人類が、この相対湿度40~60%を好む人類だったのだと思うのです。これはアメリカ人なので、日本人の場合には10%ほどずれていて50~70%が最適域だと思います。そのずれの分細菌やカビに襲われる危険も増えますが、それ以上の豊かな大地の恵みもあり、このアジアのモンスーン地帯で暮らし続けてきたのだと思います。」
アメリカ暖房冷凍空調学会(American Society of Heating and Air-Conditioning Engineers: ASHRAE)は、同協会が2009年10月に出版した室内空気質設計ガイドを2013年6月25日に無料で同協会のホームページに公開しました。
図の引用は、萌文社発行宇都正行・丸谷博男著「そらどまの家読本1 ZIGZAGHOUSE」53P
この湿気の多い日本での暮らしに徹底した暮らし方を示唆している本があります。それは「衣・食・住おばあちゃんの知恵400/暮らしの達人研究班・編」です。その本の中に、「押入れジメジメ撃退法」という項があります。そこから暮らしの知恵を引用してみます。
- ・押入れ掃除は天気のいい日に/押入れ掃除で大切なことは湿気を追い出すこと。
カラッとした天気の日に掃除しましょう。 - ・扇風機で押し入れの空気を入れ替える/カビに気づいたら徹底して清掃しましょう。
- ・押入れには空気の通り道を作る/いっぱいに入れずに空気の通り道を作る。そすればカビが生えにくい。
- ・押し入れの収納は壁から5センチ離す/空気の通り道を作るために、壁からも天井からも5センチ離す。
- ・床にはスノコを、壁にもスノコを/スノコの足は上下方向に向けて空気の通りやすいようにする。
ここに列記された知恵は「なるほど」と思えることばかりです。これを拡大解釈すると家づくりの知恵に結びつけることが出来ます。それが換気・通風の知恵です。それと同時に、調湿剤による湿気コントロールを取り入れれば、一年中快適な環境をこの日本の風土の中で作ることができるのです。
木と土で造った民家の温熱性能・調湿性能を以下に例示します。
この民家とデーターは、群馬県吾妻郡六合村にある木造3階建て土蔵造りの民家「湯本邸」を建築家金田正夫氏が実測したものです。
土壁の調湿(引用資料/チルチンびと22号金田正夫氏の研究より)
■左図のデーターは、2F長英の間の室内温度と湿度の関係がすばらしいのです。乾球と湿球が平行しているのです。外気温は夜間にはほぼ同じ、昼間は開いています。この違いは土壁が夜間になると湿気を吸い込み、昼間になると吐き出していることを物語っています。
■さらに下図のデーターは、ドイツの建築家ミンケ氏の著書「土・建築・環境」に掲載されているものです。
粘土ロームの吸湿力が、他の材料に比べて抜き出ていることが良く理解できます。
コンクリートやレンガは調湿力が大変低いことが分かります。また、木材のスプルースが、反応は遅いのですが、時間をかけてしっかりと吸湿する様子もうかがえます。
■土壁で被われている木材が腐食しない理由も、この吸湿力によるものです。土壁の中は相対湿度40%以下に押さえられるため、腐朽の原因となる菌類や昆虫が生息し得ない環境がつくられているからなのです。
さて、これで木と土とで我々の祖先が作り続けてきた民家の優れた性能が理解できたことと思います。この民族的な教訓をどうしたら現代に活かせるかを考えて行きましょう。それがこの連載の目的なのです。
(つづく)
一般社団法人エコハウス研究会 代表理事・建築家
専門学校ICSカレッジオブアーツ校長(創立55年)
パッシブデザイン住宅、エコハウスの第一人者として、自然環境・人工環境にあった地域の伝統的な工夫や工法と併せて、現代技術と様々な知見を採り入れた「そらどまの家」を提唱しています。
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