Column
空気と換気のコラム
坂本 弘志 先生
4.第1種換気で知っておきたいことは
2016/03/15
はじめに
2020年からの新省エネ基準の適用、並びに2030年を目標としている新築住宅でのゼロエネルギーハウス(通称ZEH)の実現等で、今後一段と住宅の省エネ化は進むものと考えられます。このような中で、気密レベルが1.0(cm²/m²)以下となる住宅では、換気による熱損失は住宅全体の熱損失の30%程度になるとされています。そのために、換気による排気熱を回収出来る第1種換気への需要が当然ながら増して行くものと思われます。その一方で第1種換気に対しては、本当に省エネなのか、全熱型と顕熱型のどちらが優れているのか、計画通りの換気が行われるのかなどの疑問等をユーザーが持ち続けているも事実です。ユーザーのこのような疑問等に真摯に対応して行かなければ、今後の第1種換気の大きな発展は期待出来ません。そのためには先ず、第1種換気ならではの特性を十分に理解して置く必要があります。このようなことから、第1種換気の今後の需要の拡大に少しでも役に立てればと思い、「第1種換気で知っておきたいことは」と題して纏めて見ました。
第1種換気に対するユーザーの評価は
図1は、標準採用されている換気設備に関して、寒冷地である北海道・東北・信越等を中心に、北海道住宅新聞が行ったビルダーを対象としたアンケートの調査結果を示したものです。排気熱を回収出来る第1種換気の採用は30%程度であり、ここ数年の採用は殆んど伸びていません。これと逆に、ダクトレス第3種換気の採用は増加しており、依然としてビルダーは、「価格の安さと施工性の簡便さ」に軸足を置いていることが伺い知れます。計画換気の実現と省エネの促進の立場から考えると、ダクトレス第3種換気が未だに増加の傾向があることは、時代に逆行していると言わざるを得ません。しかしながら現在の換気設備に対するビルダーの要望の第1は、「価格と施工性」であると言えます。そのために、第1種換気もユーザーが求める価格と施工性にも呼応していかなければなりません。また第1種換気に関して、これまで採用実績があると答えたビルダーは、67%とかなり高いものとなっております。未だその採用に当たっては、試行錯誤的な状況であると言えます。それではここで、第1種換気に関して、ビルダーはどのような評価を行っているかを具体的に纏めて見ますと、次のようになります。
(1) 給気と排気の2通りのダクト配管が必要とすることから施工が難しく、複雑となる。
また断熱ダクトを使用するので径が大きくなり、配管スペースの確保に苦労する。
(2) 高断熱化すると暖房と換気設備を低イニシャルシステムに出来ると思われるが、
低コストのベストと言える第1種の製品が見当たらない。
(3) 関東北部では、第1種と第3種のどちらかが良いのか判断出来ず、
今のところ明確な見解が見渡らないことから、採用に踏み切れない。
(4) メンテナンス面で問題がある。とくに給気ダクトの清掃が大変そうである。
また、フィルターの清掃にも問題を有する。
(5) イニシャルコストが高く、さらにランニングコストも高くなりそうである。
先ずは顕熱型で低価格な製品があれば採用に踏み切りたい。
(6) 換気設計が難しく、計画通りの換気が行われるどうかの疑問がある。
また稼動中に起こる想定外のトラブルも心配である。
(7) デフロストの時間帯が長く、本来の第1種換気の役割を果たしている時間に問題を有する。
今後、これらの課題や疑問に真摯に対応して行く事が求められますが、いずれも解決が出来ない問題では無いと考えられます。
図1 種類別換気システムの採用割合
第1種換気に求められる気密レベルは
表1は、住宅の隙間相当面積cm²/m²に対する風圧力による自然換気回数(回/h)を示したものです。ここで示す隙間相当面積は、通常「C値」と呼ばれるもので、住宅の床面積1m²当たりどのくらいの穴(cm²)が壁面に開いているかを示すものです。例えばC値が2の35坪の住宅であれば、穴の大きは
となり、直径17cmの穴が開いていることになります。風速が2.5~3m/sの風速(年平均風速の大部分はこの程度の値である)において、第1種換気ではC値が0.5、第3種換気では2を越えると、風圧力による自然換気が発生することになります。さらにこれに、表2に示す室内外の温度差による自然換気回数(回/h)が加わることになります。第1種換気では、最も効果的に排気熱を回収するためには、給気と排気の風量を等しくする事が必要条件です。そのためには、自然換気を出来る限り少なくしなければなりません。このようなことから、第1種換気の採用に当たって求められる気密レベルは、「0.5cm²/m²以下」であると言えます。
表1 風圧力による自然換気回数(回/h)
表2 室内外の温度差による自然換気回数(回/h)
給気ダクトの簡素化を図る
これまでの熱交換型換気システムの大部分は、給気と排気を各居室に設けることにしています。そのためにダクト配管はかなり複雑となり、施工費も高いものとなっています。このことがビルダーの第1種換気の採用を躊躇している理由の一つとなっています。上述したように、第1種換気の熱回収を高めるには、住宅の気密レベルを上げることが大前提です。またダクト配管の簡素化は、住宅の気密レベルを上げることで始めて可能となります。ダクト配管の簡素化に当たっては、給気経路と排気経路のどちらにすべきかが問題となります。現在は排気経路を簡素化する方法が多く採用されているようですが、以下の理由から給気経路とするべきと考えます。
(1) 第1種換気では、給気経路のダクトの清掃は避けて通れません。給気経路のダクトの清掃を容易にするために、ダクト配管を簡素化することが基本となります。
(2) 第1種換気で集中排気方式とすると、トイレ等の汚染された空気の拡散の恐れが生じます。このことを避けるために、排気は第3種換気に近いものにせざるを得ません。ただ建物の気密レベルが高くなると、トイレや水廻りを主体とした排気が可能となり、排気経路も簡素化出来ることになります。
それでは以下、簡素化された給気経路についての具体的例を示します。
【天井給気型方式】
給気口は出来る限り換気設備の本体近くとし、1Fと2Fにそれぞれ2箇所程度とします。また給気口は冷気感を防ぐ上で廊下やホールに設けるものとします。さらにフィルターの清掃を含めた点検を容易とするために、換気設備の本体の設置位置は1F、または2Fの床上とします。
【床給気型方式】
熱交換器を1Fの床下に設置し、給気は1Fの2箇所程度の床ガラリとします。排気は1Fと2Fにそれぞれ2箇所程度の床ガラリ、または天井ガラリで行うものとします。このような熱交換器の1Fの床下の設置は、フィルターの清掃を含めたメンテナンスが容易になります。図2に具体的な施工例を示して見ました。
図2 簡素化された第1種換気の施工例
給気の気流感を防ぐには
一般に気流感は、流速0.3m/sを越えると感じるとされています。室内の上下に温度差があると、対流が発生し、寒く感じることからも分かります。そのために、室内上下の温度差がほとんどない気密と断熱化が図られた住宅では、気流の発生が少なく、暖かさを感じます。同じように、給気による気流感も流速0.3m/sを越えると生じます。とくに給気の気流による不快感は、給気の温度を室温より高くしても感じると言われています。これを防止するには、以下の事が考えられます。
【方法1】
給気グリル、あるいは給気ガラリの大きさは、その出口における気流の流速が0.3m/s以下に抑えることが出来るものを採用します。給気の流速はグリルやガラリの面積に反比例します。出口面積を2倍にすると、流速は1/2となります。このように給気口の面積を変えて、吹き出しの流速を調整することで気流感を防止します。
【方法2】
給気グリル、あるいは給気ガラリは、リビング、ダイニング、寝室を避けて、ホールを中心とした天井、あるいは床とします。給気による気流感の問題はリビングや寝室で起こることが多いことから、これらの場所の取り付けは極力避けます。
【方法3】
天井付け給気グリルは、天井面に沿って気流の拡散が行われるようにするために、風向偏向板を有するものを用います。風向偏向板を有する給気グリルを用いた場合には、給気によって起こる気流感のクレームは殆んどないことから、かなり効果があるものと考えます。
顕熱型か全熱型か
第1種熱交換器は、顕熱型と全熱型の二つに分けられます。ヨーロッパやカナダでは顕熱型、日本では全熱型が主流となっています。市場では、顕熱型と全熱型に関して「どちらに優位性があるのか」との疑問がありますが、明快な見解が見渡りません。そこで、顕熱型と全熱型の特性に関して今一度整理し、かかる疑問に呼応する糸口を探りたいと思います。図3は、全熱型と顕熱型熱交換器の違いを示したものです。図に示すように、全熱型は顕熱(温度)だけでなく、潜熱(水蒸気)も交換するものです。一方顕熱型は温度だけを交換するものです。ヨーロッパでは冬は寒いが湿度は高い為に、年間を通して比較的適度な湿度環境であることから温度の交換だけでよいとされ、顕熱型が普及しています。しかし日本では、夏は蒸し暑く、冬は過乾燥となることから湿度の交換も求められ、全熱型が主流となっています。
図3 全熱型と顕熱型熱交換器の違い
つぎの表3は、全熱型と顕熱型の長所と短所を纏めて示したものです。
表3 全熱型と顕熱型の長所と短所
先ず、湿度の回収の有無による熱回収について評価するものとします。湿り空気(水蒸気を含む)1Kg当たりの熱量(空気1Kg当たりの熱量で、これを比エンタルピと定義する)は、次式で評価されます。
湿り空気の比エンタルピ=乾き空気のエンタルピ+水蒸気の比エンタルピ
ここで、t は温度(℃)で、xは絶対湿度(Kg/Kg)です。いま空気の温度を26℃、絶対湿度を0.01(Kg/Kg)、相対湿度は55%と仮定すると、
●乾き空気の比エンタルピ=1.006t=1.006×26=26.156(KJ/Kg)
●水蒸気の比エンタルピ=x(2501+1.846t)=0.01(2501+1.846t)=25.49(KJ/Kg)
となり、空気に含まれる水蒸気は、乾き空気と同程度の熱量を有していることになります。このように顕熱型では、水蒸気の有する熱量を回収することなく、室外に排出されます。そのために水蒸気の有する熱量を回収できる全熱型は、顕熱型に比べて熱的には優れていることになります。ただ全熱型での熱交換効率は顕熱型に比べて低いこと、並びに湿度(水蒸気)の交換効率があまり高くないことから、熱回収に関しては顕熱型に較べて全熱型が特段に優れているとは言い切れません。ただ全熱型の熱交換効率が60%を超えると、回収される熱量は顕熱型に比べて大きくなります。
つぎに熱交換素子の耐久性に関しては、顕熱型の熱交換素子は金属やプラスチック、全熱型では紙で出来ていることから、顕熱型の熱交換素子の方が耐久性は高く、清掃も簡単に出来る優位性を有しています。また熱交換器内で空気のリークに関しては、全熱型では10~15%、顕熱型では3~5%程度とされています。このような空気のリークに関しては、国土交通省が編集した『木造住宅のシックハウス対策マニュアル』の中でも触れており、全熱交換型換気システムを導入する場合、有効換気量率を考慮しなければならないとしています。例えば150m³/hの必要換気量において、10%のリークがあるとすれば、全熱交換型では165m³/hの換気量が必要となることになります。このように換気量の確保では、顕熱型が優位性を有することになります。
さらに汚染空気の再リターンに関しては、顕熱型では殆んどないが、全熱型では水蒸気を受け渡すことができる紙状の熱交換素子を用いているために、水蒸気と同時に汚染物質も移動する危険性があります。ヨーロッパや北米では、全熱型熱交換器がこれまで普及しなかったのは、汚染物質の再リターン問題に起因するとも言われています。最近、全熱型の熱交換素子として水蒸気以外の物質を通さないものが出て来ています。ただ、その効果の程度が今のところあまり明確ではありません。
以上述べたように、全熱型では湿度が回収出来ることから,室内の湿度の調整と素子内の結露防止に高い優位性を有しています。ただ内部での空気のリークによる汚染された空気の再リターンや交換素子の耐久性と清掃の問題等から総合的に判断すると、一概に全熱型は顕熱型に比べて優れているとは断定出来ません。言えることは、ユーザーが両者における長所と短所を良く理解し、「何を重視するか」でその採用を決めなければならないことです。
熱交換効率は換気量によって変わる
熱交換効率は、換気量によって変化することを知っておく必要があります。図4は、顕熱型と全熱型の熱交換効率を示したものです。顕熱型と全熱型のいずれも、熱交換効率は流量の増加と共に小さくなります。とくに全熱型の熱交換効率の減少割合は、顕熱型に比べてかなり大きくなります。これは流量が大きくなる従って、湿度の回収効率が減少することによるものであると考えられます。現在の熱交換器の製品のカタログの大部分は、流量がゼロでの熱交換効率を表示しています。言うまでもなく、流量がゼロでの熱交換効率は何の意味も持っていません。大事なのは、計画された換気量での熱交換率なのです。
(a) 顕熱型熱交換器
(b) 全熱型熱交換器
図4 顕熱型と全熱型の熱交換効率の一例
給気に伴う外気の汚染物質を防ぐには
PM2.5の飛来の増加によって、給気に伴う外気に含まれる汚染物資の室内への侵入を防止する事が極めて大切なことになります。第1種換気は、汚染物質の室内への防止を行う上で給気ダクトにフィルターや外気清浄機を容易に取り付けることが出来るために、他の換気設備に比べて優位性を有しています。その一方で第1種換気では、図5に示すようにフィルターや素子の汚れによって性能が著しく低下することから、外部の汚染物質の侵入防止対策が強く求められることになります。第1種換気での汚染物質対策は、主にフィルターを用いて行われていますが、PM2.5で代表させる微細な汚染物質を除去する上では、かなり高性能のフィルター、いわゆるHEPAフィルターが必要とされます。フィルターの性能を高くすればするほど、その圧損抵抗が増加し、換気性能の低下を招きます。最近、PM2.5で代表される微細な汚染物質を完全に除去出来る外気清浄機が株式会社トルネックスから発売され、注目されています。この機器は、低圧損でかつ給気経路に簡単に取り付ける事が出来る優れた性能を持つものです。PM2.5で代表される微細な大気汚染物質が増々増加している現状を考えると、今後当該機器に対する市場の期待が高まって行くものと考えます。
図5 フィルターの汚れ
換気設備は目の届く場所に
第1種換気は、他の換気設備に比べてフィルターの清掃と取替えを主体にしたメンテナンスの頻度は、他の換気設備に比べて高くなります。現在換気設備の多くは、天井裏に取り付けられています。これでは幾らユーザーに定期的なメンテナンスの必要性を申し伝えても、なかなか実施してくれません。ましてや高い位置での取り付けは、年齢のユーザーにとって困難で、かつ危険を伴う作業となります。図6示すように、換気設備はIF,あるいは2Fの目に見える場所に取り付けることを基本としたいものです。ヨーロッパ等では換気設備をメンテナンスがし難い天井裏等の見えないところに取り付ける事はほとんど有りません。最近、換気設備をメンテナンスが容易に出来る場所に取り付けるようにする動きが国の機関から出て来ています。歓迎すべき動きで、今後業界として強く押し進めて行くことに大いに期待します。
図6 1F床に設置された熱交換器
おわりに
第1種換気は、住宅の更なる省エネ化を図っていく上で、当然換気設備の主役になって行くものと思います。このようなことから、第1種換気の今後の需要の拡大に少しでも役に立てればと思い、「第1種換気で知っておきたいことは」と題して纏めて見ました。今後の第1種換気の普及に何らかの手助けになればと思います。
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