Column
空気と換気のコラム
鍵 直樹 先生(ウィズコロナ時代に備えるための室内空気環境とは)
6.空気清浄機のフィルタの有効性について その②
2022/04/22
空気清浄機の性能評価
浮遊粉じんの除去とともに,空間中の新型コロナウイルスが飛沫核中に存在することから,粉じんと同様に空気清浄装置などが有効であると考えられる。しかし,対象となる空間に対して,どの程度の性能の空気清浄機を選択すれば良いかは,難しい判断となる。そこで,いくつかの空気清浄機の性能評価方法の規格について,その特徴について紹介する。
空気清浄機の性能評価に関する主な規格としては,日本電機工業会(JEMA),日本空気清浄協会(JACA),米国家庭用電化製品工業会(AHAM)のものがある。表1に,各規格・指針の比較について示す。対象とする空気清浄機としては,JEMA規格が家庭用・事務所用,JACA指針は業務用,AHAM規格は可搬型空気清浄機となっており,若干の違いがある。評価方法では,JACA指針についてはエアフィルタ単体の性能評価と同様の思想で,空気清浄機の吸い込み側に汚染物質を発生させ,機器の吸い込み・吹き出し口の空気を測定するシングルパス法が他の規格にはない方法として提案されている。エアフィルタの試験と同様に,粒子状物質を対象とする場合,空気清浄機吸い込み側に試験粒子を発生させ,パーティクルカウンタで粒径0.3 µm以上の粒子個数濃度を吸い込み側と吹き出し側のそれぞれを計測して,その効率を求めるものである。
表1 空気清浄機の性能評価に関する規格・指針
この方法では,空間中での性能評価を行うことができないため,3種の規格に共通して,空間中(チャンバー)において空気清浄機を設置して,空間中の汚染物質,粒子状物質の濃度の減衰から性能を評価するチャンバー法についても規定している。JEMAによる規格においては,消費者に分かりやすい表現とするため,適用床面積として表示している。これは,たばこ煙を対象として,空間中の粉じん濃度1.25 mg/m3を30分で,建築物衛生法の管理基準値として定められている0.15 mg/m3まで清浄できる部屋の大きさの目安としている。適用床面積が大きいほど,その能力が高いと言える。
JACAにおける指針では,上述のJEMAと濃度の減衰を計測することは基本的には同じであるが,濃度の減衰から空気清浄機が清浄空気を供給する量として,相当換気量[m3/h]としている。対象とする汚染物質を空気清浄機が生成する単位時間あたりの清浄空気の風量として表現している。以前のコラムで,必要換気量について記述しているが,この量と同じ単位となり,新鮮外気を取り入れる量と同等という観点から換気量となっている。また,AHAMにおけるCADR(清浄空気供給量)も,相当換気量と同様ではあるが,空気清浄機が「たばこ煙」,「粉じん」,「花粉」の3種類の汚染物質をどれくらい除去するかを表している。よって,この数値が大きいほどより早く空気を浄化する能力を持っていることを示している。なお,以上の性能指標はフィルタの捕集効率がさほど良くなくても風量が大きければ,清浄空気を供給する量としては大きくなるので,空気清浄機の風量にも依存することとなり,フィルタ単体の捕集効率とは異なった指標となっていることに特徴がある。
また,チャンバを用いた試験は,空間中における空気清浄機の吸い込み,吹き出しによって作られる空間中の空気の流れによる浄化能力も考慮されていることになる。しかしながら,試験ではチャンバー内部には邪魔されるものが何もなく理想的な空間における試験となるが,実空間では空間の形状や什器など気流の流れを阻害するものが多く存在する。これを考慮して,空間中にパーティションなどを設置することにより,性能の低下を確認した事例もある 2)。空気清浄機自体の性能評価と共に,対象となる空間での空気清浄機の効果についても,例えば実際に空気清浄機を事務所空間に導入する時など,チャンバー法などの試験方法では考慮できない条件もあるため,その効果を予測するのは簡単ではない。
文献
1)鍵直樹:粒子状物質の除去性能評価の現状と課題,空気清浄,53,1,8-14,2015.5
2)小泉誠,藤井修二,鍵直樹:空気清浄機の粒子除去性能に与える影響に関する研究,第31回空気清浄とコンタミネーションコントロール研究大会予稿集,86-88,2014
(おわり)
東京工業大学 環境・社会理工学院 建築学系 教授 博士(工学)
室内における空気環境について、汚染物質の発生から、室内での挙動把握・予測、及び対策について研究。前職の厚生労働省の研究機関である国立保健医療科学院では、建築物や医療施設等現場での検証にも携わる。日本建築学会、空気調和・衛生工学会、日本空気清浄協会、日本エアロゾル学会等多数の学協会に所属。一般社団法人日本建築学会において、2021年度日本建築学会賞(論文)を受賞。
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