Column
空気と換気のコラム
鍵 直樹 先生(ウィズコロナ時代に備えるための室内空気環境とは)
4.対策方法について その②
2022/03/25
空気清浄機などの設備対策方法
新型コロナウイルス感染症対策の一つとして,換気が重要である。しかしながら,夏期の冷房時,冬期の暖房時において過剰な換気を行うことで,その他の環境項目,室内の温度,相対湿度などを維持することが難しくなることがある。
「建築物における衛生的環境の確保に関する法律(建築物衛生法)」における室内温度の管理基準値は,執筆の時点で17~28°Cであるが,WHO は呼吸器系疾病予防の観点から冬期の温度として18°Cを下回らないように勧告している 1)。また,建築物衛生法における湿度の管理基準は 40~70%であるが,一般に呼吸器系の疾病の予防には,相対湿度を 40~60%の範囲に制御することが望ましいとする報告がある 2)。新型コロナウイルス感染症のリスク要因の一つである「換気の悪い密閉空間」を改善するための換気と,室内の温熱環境の維持を両立することが重要である。
建築室内における空気清浄化の基本的な要素として,図1に示すように室内において汚染を発生させない「発生を抑える」,汚染物質を室内に入れないよう「入れない,持ち込まない」,汚染が発生したとしても速やかに除去する「室内に留めない」,新鮮な空気により希釈する「速やかに排出」がある。発生源の制御には,「発生を抑える」,「入れない,持ち込まない」ことになる。「汚染物質の室内からの除去」及び「速やかに排出」については,換気とともに空気清浄機によっても実現することも可能である。
図1 室内空気清浄の原則 3)
表1に示すように汚染物質の種類によって,その除去対策は異なる。室内で発生する粒子状物質,ガス状物質,臭気,水蒸気等の様々な汚染物質を室外に排出し,室外から新鮮な空気を供給することが,空気清浄化においては万能な方法として換気の重要な役割となっている。しかしながら,前述したように換気ばかりに頼りすぎると,室内の他の環境項目を制御することが困難になるだけではなく,空調に使用したエネルギーの消費にも影響を及ぼす。室内における粒子状物質の清浄化は,空調機に設置されているエアフィルタや空気清浄機により行うことができる。一方,ガス状汚染物質については,ケミカルエアフィルタや化学物質に対応した一部の空気清浄機においては除去することが可能であるが,基本的には新鮮空気で入れ替えとなる。
表1 室内汚染物質除去の基本 3)
汚染物質の捕集原理としては,表2に示すように,粒子状汚染物質の除去には,各種エアフィルタや電気集じん機が用いられる。エアフィルタには,粗じん用フィルタ(プレフィルタ),中性能フィルタ,高性能フィルタ,静電フィルタなどがある。事務所などの建築物においては,粗じん用フィルタと中性能フィルタを組み合わせたもの,電気集じん機などが多く使用されている。ガス状汚染物質の除去には,粒子除去用のエアフィルタではその効果がなく,活性炭,イオン交換樹脂フィルタなど,物理的・化学的吸着の原理を用いたケミカルエアフィルタなどが使用される。一部の空気清浄機や高い清浄度が要求されるような半導体用のクリーンルーム等において用いられる。一般的な建築物では,このケミカルエアフィルタが使用される例はまれで,ガス状汚染物質の排除には換気による希釈が主となる。
住宅においては,空気清浄機が家電製品としてよく使用される。空気中に浮遊する微粒子(粉じん,花粉,ハウスダスト)や臭気(ペット臭など),近年ではシックハウス症候群により化学物質(臭気)を除去の対象としたものがある。その他にも,真菌,細菌,ウィルスを除去対象としているもの,付加価値として汚染物質除去の他にイオンを発生するもの,加湿器を内蔵しているものなども市販されている。しかし,その汚染物質の除去効果については,不明な点も多い。
表2 空気清浄機に用いられる捕集方式と捕集対象物質 4)
文献
1) WHO: WHO HOUSING AND HEALTH GUIDELINES, 2018.11, https://www.who.int/publications/i/item/9789241550376
2) ASHRAE, ASHRAE Position Document on Infectious Aerosols, 2020. https://www.ashrae.org/file%20library/about/position%20documents/pd_infectiousaerosols_2020.pdf
3) 上野佳奈子,鍵直樹,白石靖幸,高口洋人,中野淳太,望月悦子:しくみがわかる建築環境工学,彰国社,175,2016.12
4) 日本建築学会空気環境運営委員会 感染伝播と空気質WG:新型コロナ対策に関する分かりやすいQ&A,2021.12,http://news-sv.aij.or.jp/kankyo/s7/QandA_COVID-19.pdf
(つづく)
東京工業大学 環境・社会理工学院 建築学系 教授 博士(工学)
室内における空気環境について、汚染物質の発生から、室内での挙動把握・予測、及び対策について研究。前職の厚生労働省の研究機関である国立保健医療科学院では、建築物や医療施設等現場での検証にも携わる。日本建築学会、空気調和・衛生工学会、日本空気清浄協会、日本エアロゾル学会等多数の学協会に所属。一般社団法人日本建築学会において、2021年度日本建築学会賞(論文)を受賞。
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