Column
空気と換気のコラム
鍵 直樹 先生(ウィズコロナ時代に備えるための室内空気環境とは)
3.対策方法について その①
2022/03/15
新型コロナ時代の換気方法
一般に換気とは,室内の汚れた空気を室外の新鮮な空気に入れ替えること,とされている。よって,室内において空気質を維持するためには,室内にある汚染物質を排除するために,空気の流れを用いて室外に排気するとともに,外気の空気が清浄の場合には,外気を室内に入れて,室内の汚染物質を希釈することになる。新型コロナウイルス感染対策として,換気が注目されているが,これは室内に感染者が存在し,ウイルスを排出していれば,室内に発生源があり,外気にはほぼ存在しないことから,室内の新型コロナウイルス濃度を低減させるために効果的な方法となる。
換気は,「自然換気」と「機械換気」に分類することができる。機械換気は,換気扇など機械設備を用いて空気を入れ替えることで,自然換気はそのような設備を用いず,窓やドアなどを開けて換気を行うものである(図1)。換気量[m3/h]とは,1時間当たりに外気が流入・流出した空気量であり,換気回数[回/h]は換気量を室容積[m3]で除したもので,室容積基準で表したものになる。
図1 自然換気と機械換気
室内全体の空気が入れ替わるような換気を「全般換気」といい,トイレ,浴室,厨房など対象とする汚染空気の排除を目的とした換気を「局所換気」という(図2)。自然換気は換気量の制御が難しいものの,十分な機械換気設備がない空間では,自然換気を併用することが簡便である。また,通常室内において感染者が特定できないことから,室全体を清浄化する「全般換気」を行う必要がある。
図2 全般換気と局所換気
必要換気量とは,汚染物質濃度を基準濃度以下に保つために必要な換気量である。住宅においては,シックハウス症候群対策として,0.5回/hの機械換気設備を設置することが義務付けられている。これはシックハウスの主原因となる内装材などから発生するホルムアルデヒドの対策によるものである。一方,建築物においては,機械換気設備または空調設備を設置することが義務付けられ,特に「建築物における衛生的環境の確保に関する法律(建築物衛生法)」で適用される興行場,百貨店,店舗,事務所,学校等の用途に供される建築物については,二酸化炭素濃度を1000 ppm以下とすることが求められているため,この基準値に適合するように換気設備が設置されている。これは,一人当たり30 m3/h程度の換気量を確保するような設備となる。
新型コロナウイルス対策としての換気は,まず感染者がいるかどうかが分からないことが,難しくしているところである。また,発生源があったとしても,目標となる濃度,すなわち感染が成立するための空間中のウイルス濃度が分からないため,必要換気量の設定ができないのが現状である。しかし,換気の悪い密閉空間ではない建築物は,とりあえず一人当たり30 m3/hであること,二酸化炭素濃度が1000 ppmを超過しないことを目安としているところである 1)。
二酸化炭素を指標にすると,問題もある。図3の左の空間に示すように,居室に多くの人がいると二酸化炭素濃度を1000 ppmに維持するためには多くの換気量が必要となる。一方,人が少ない右の空間では,1000 ppmを維持するためには,左の空間ほど換気量は必要とはならない。しかし感染者はいずれも最低でも一人いるとすると,換気量の少ない方が二酸化炭素濃度は同じであっても,換気量が少ないためウイルスの濃度は高くなることになる。また,飲食店などを中心に換気の目安として二酸化炭素濃度の測定が行われている。目安としては良い指標ではあるが,今回の新型コロナウイルスにおける換気については,空調設備として設計当初の換気が確保されていることを二酸化炭素濃度の解釈をしっかり行うことで,維持・管理することが重要である。
また,過剰な換気も注意する必要がある 2)。夏期,冬期などは温湿度に注意して,適切な換気量を確保できる換気設備があるのであれば,その機能を最大限に使用した方が良い。
図3 二酸化炭素濃度指標とウイルス濃度の考え方 3)
文献
1) 厚生労働省:「換気の悪い密閉空間」を改善するための換気の方法,2020.4
2) 厚生労働省:熱中症予防に留意した「換気の悪い密閉空間」を改善するための換気の方法,2020.6
3) 鍵直樹:空気環境からみたコロナ禍の学校環境における対策,建築の研究,258,6-11, 2021.10
(つづく)
東京工業大学 環境・社会理工学院 建築学系 教授 博士(工学)
室内における空気環境について、汚染物質の発生から、室内での挙動把握・予測、及び対策について研究。前職の厚生労働省の研究機関である国立保健医療科学院では、建築物や医療施設等現場での検証にも携わる。日本建築学会、空気調和・衛生工学会、日本空気清浄協会、日本エアロゾル学会等多数の学協会に所属。一般社団法人日本建築学会において、2021年度日本建築学会賞(論文)を受賞。
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