Column
空気と換気のコラム

丸谷 博男 先生

6.換気とはなんだろう

2019/03/11

空気は見えない
存在しないわけではなく いつもそこにいる
地球の周りに居てくれるのが不思議

そして風も見えない
揺れる木々や水面に 風の足跡を目にすることができる
空気に重さがあることも不思議

ビニール袋に紙の空き箱を入れておいて 内側の空気を抜くと
あっという間に空き箱は潰れてしまう
その時 空気の重さが凄いのだと知ることができる

1㎠に1kg、10㎝四方に100kgの重さがかかるなんて凄まじい
人間も動物も潰れないのが不思議

魚は水の中にいて 水の中の空気を吸い込んでいる
人間は ホースかボンベで空気を持ち込まないと 水の中には入れない

人間の住まい その内側と外側には空気がある
昔の家は隙間だらけだったから 内外の空気質に差はほとんどなかった
今の高性能住宅は気密化されているので 内外に大きな差が生じてしまう

そうなると人工的にコントロールするしかなくなる 人間の都合の良いように
とは言ってもそんなことは不可能
人間の都合がよければ 他の生物 微生物や菌類にとっても好条件となることが多い
だから実際は 固定的な対応ではなく臨機応変の対応が必要となる

どこまで言っても機械は機械 人工的な制御による機械換気だけではうまくいかない
人間の総合的な感性を大切にしよう 機械はそれほど細やかには制御ができないから

■空気の存在って不思議

空気の正体は、以下の通りです。


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 ※乾燥空気の組成(八光電機ホームページhttps://www.hakko.co.jp/より引用させていただきました。)

しかし、この成分量は地球のどこでも一緒なのでしょうか。
高山では酸素が少なくなることはみなさんも承知と思います。ということはこのデーターは海抜0mでのデーターでしょうか。そうなのです。これは1気圧下での状態のようです。また、温度もあるときの温度のデーターなのではないかと思います。次のデーターをご覧ください。それぞれが温度によって状態変化があることが理解できます。

・各種物質の性質: 気体の性質

 1atm (1013.25hPa) のときの値 飽和水蒸気を除く

その1:空気、水蒸気

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その2:飽和水蒸気、アルゴン、水素、窒素

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その3:炭酸ガス、酸素、一酸化炭素、アンモニア、亜硫酸ガス、ヘリウム、メタン

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でも実際は上記が含まれています。それも常に変動していますね。地球上の場所によっても異なります。それによって、生物の快適度、繁殖の状況も異なってきます。

00℃の時の飽和蒸気圧は6.1121hPa(0.0060322atm気圧)

20℃の時の飽和蒸気圧は23.392hPa(0.023087atm気圧)

30℃の時の飽和蒸気圧は42.47hPa(0.041915atm気圧)

●温度によって変化する水と空気の粘性

換気とはまさに水分を含んだ空気を動かすことになりますが、実は温度によってそれぞれの粘性が変化しているのです。単純には、水は温度が上昇すると粘性が弱くなり、空気は逆に温度が上昇すると粘性が強くなる傾向があります。とても不思議な現象なのです。

●水・空気の物性

ここでは代表的な流体である、水と空気の物性一覧表を示します。

標準大気圧(0.1013MPa)における水・乾燥空気の物性

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コロナ社「流体の力学」より抜粋

■不必要なものを身辺から取り除き、必要な環境を整えるために換気は必要

空気は人間にとって都合の良い「運び屋」さんです。
しかし、空気の中に含まれているものを、日常生活の中で個々に取り出すことはとても無理です。悪いものが含まれていれば良いものも一緒に捨てるしかないのです。トータルな意味で良好な空気を取り入れるしかないのです。

●「不必要なものを身辺から取り除く」とはどのような意味か

一酸化炭素、二酸化炭素、じんばい、湿気、臭気、カビの胞子、細菌類(ウィルス、ビールスほか)など人体や住宅に害を及ぼす恐れのある状態となった場合には、その空気を廃棄し、清浄な外気を取り入れる方法しかありません。理想的にはそう入れ替えが良いのですが、清浄な空気を室内に押し込み入れ替えていくという方法が現状では取られています。浴槽の差し湯と同じで、そう簡単には浴槽内の水がきれいになりません。しかし、現状の住宅やオフィスではこのような非効率的な方法が一般的となっています。改めて検討する必要があります。
さて、建築衛生法によってどのような基準が定められているのでしょうか。ここで参照してみます。

1 建築物環境衛生管理基準とは
特定建築物維持管理権原者(特定建築物の所有者、占有者その他の者で当該特定建築物の維持管理について権原を有する者)は、建築物衛生法に規定される「建築物環境衛生管理基準」に従って当該特定建築物の維持管理をしなければなりません。
この「建築物環境衛生管理基準」は、「空気環境の調整、給水及び排水の管理、清掃、ねずみ、昆虫等の防除その他環境衛生上良好な状態を維持するのに必要な措置について定める」と規定されており、高い水準の快適な環境の実現を目的とした基準です。
したがって、建築物環境衛生管理基準に適合していないという理由だけでは、直ちに行政措置や罰則の対象となるわけではありません。ただし、建築物環境衛生管理基準について違反があり、かつ、その特定建築物内の人の健康を損なうおそれが具体的に予見されるような事態が生じた場合には、都道府県知事は改善命令等を出すことができます。また、事態が緊急性を要する場合については、都道府県知事は、当該事態がなくなるまでの間、関係設備等の使用停止や使用制限を課することができます。
●特定建築物以外の建築物であっても、多数の者が使用、利用するものについては、建築物環境衛生管理基準に従って維持管理をするように努めなければならない(法第4条第3項)こととされており、いわゆる努力義務が課せられています。

2 空気環境の調整
(1)空気調和設備を設けている場合の空気環境の基準
建築物衛生法において、空気調和設備とは、「エア・フィルター、電気集じん等を用いて外から取り入れた空気等を浄化し、その温度、湿度及び流量を調節して供給(排出を含む。)ことができる機器及び附属設備の総体」をいいます。すなわち、浄化、温度、湿度、流量の調節の4つの機能を備えた設備のことです。
空気調和設備を設けている場合は、居室において、下表の基準におおむね適合するように、厚生労働大臣が定める「空気調和設備等の維持管理及び清掃等に係る技術上の基準」に従い、空気調和設備の維持管理に努めなくてはなりません。

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(2)機械換気設備を設けている場合の空気環境の基準
建築物衛生法において、機械換気設備とは、「外から取り入れた空気等を浄化し、その流量を調節して供給することができる設備」をいいます。すなわち、空気調和設備のもつ機能のうち、温度調節及び湿度調節の機能を欠く設備のことです。
機械換気設備を設けている場合は、居室において、下表の基準におおむね適合するように、厚生労働大臣が定める「空気調和設備等の維持管理及び清掃等に係る技術上の基準」に従い、機械換気設備の維持管理に努めなくてはなりません。

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・「居室」とは、建築基準法第2条第4号の定義と同義であり、居住、執務、作業、集会、娯楽その他これらに類する目的のために使用する室をいいます。
・空気調和設備及び機械換気設備が備える機能の1つである「浄化」とは、外気導入ができるものを前提としています。
・空気調和設備は、浄化、温度調節、湿度調節、流量調節の機能のうち、1つでも欠けば、当該設備に該当しないこととなりますが、この4つの機能を「複数の設備」で満足している場合にも、これらを一体的に捉え、空気調和設備とみなすことが適当と判断されます。

この他に規制されている物質があります。それは以下の通りです。

●厚生労働省指定13化学物質と指針値を示す。

ホルムアルデヒド — 0.08 ppm
アセトアルデヒド — 0.03 ppm
トルエン — 0.07 ppm
キシレン — 0.2 ppm
スチレン — 0.05 ppm
エチルベンゼン — 0.88 ppm
パラジクロロベンゼン — 0.04 ppm
フタル酸ジ-n-ブチル — 0.05 ppm
クロルピリホス — 0.07 ppb (小児は 0.007 ppb)
テトラデカン — 0.04 ppm
フタル酸ジ-2-エチルヘキシル — 7.6 ppm
ダイアジノン — 0.02 ppm
フェノブカルブ — 3.8 ppm
TVOC(総揮発性有機化合物) — 400 μg/m3

■換気の功罪―人間の都合の良いようには換気できない

一番問題としたいのは、部屋の空気体積を換気扇の排気能力で割って換気量を・換気回数を計算していることです。実際にはそのように都合よく換気することはとても難しいのです。部屋の隅部の空気は動きづらく、抵抗が少なく動きやすいところだけが換気されているのが真実です。目に見えない空気の流れ=川ができてしまっているのです。
理想的には空気を全面的に入れ替える方法があります。あるいは常時換気する方法で進める場合には、室内空気を攪拌しながら換気する方法か、面で排気し面で給気することが基本的な考え方です。

●限られていますが、その中でも人類はどのように換気を考え工夫してきたのでしょうか

(1)バーナード・ルドルフスキーの「建築家なしの建築」
ここには世界の民家の工夫が示されています。

https://monoskop.org/images/d/d3/Rudofsky_Bernard_Architecture_Without_Architects_A_Short_Introduction_to_Non-Pedigreed_Architecture.pdf


ハイデラバードの風の塔
ハイデラバードの風の塔

(2)日本の養蚕民家の工夫
通風、採光、温度維持に関する工夫がされています。
連載「古民家から学ぶエコハウスの知恵」by 丸谷博男

http://coretokyoweb.jp/?page=article&id=494


松ヶ岡開墾記念館
松ヶ岡開墾記念館

競進社模範蚕室全景
競進社模範蚕室全景

■最後に快適換気、理想の換気について一言

「空気が美味しい」「空気が気持ち良い」
こんな感想が得られれば最高ですね。
そのために、何をどうしたら良いのか。
これに応えられなければ、暮らしに役立つ技術者ではありませんね。

そこで行き着いたのが、「そらどまの家」の呼吸する壁の構成でした。
初めに出会ったのが、長野市に本部のある「WB工法」でした。そこでは棟梁が開発した呼吸する家の構造がありました。見える空気の道を作り上げていたのです。
その実験住宅、実験壁体を見せていただいて気づいたことは、「プラスターボードって空気・水蒸気が通り抜けている」ということでした。それが事実なら目で見える形での道の必要はないという気づきでした。
そして、その次は日本インシュレーション社が普及しようとしていた「バウビオ(ゾノトライト系ケイ酸カルシウム板)」との出会いでした。実験室で確認していたデーターの中で、このバウビオがホルムアルデヒドやアンモニアを通気していたことでした。
その次に出会った実験は、ゴム風船が気体を通すために一晩で萎んだり、色々なガスがそれぞれ透過する速度が異なることを示していただいたものでした。
こうした出会いの中で、「呼吸する壁」の根拠が明確になってきたのです。

大切なことは、「求めれば成る」ということです。
改めて肝に銘じたいと思います。

(おわり)

 


■講師ご紹介

丸谷先生

一般社団法人エコハウス研究会 代表理事・建築家
専門学校ICSカレッジオブアーツ校長(創立55年)

丸谷 博男 先生

パッシブデザイン住宅、エコハウスの第一人者として、自然環境・人工環境にあった地域の伝統的な工夫や工法と併せて、現代技術と様々な知見を採り入れた「そらどまの家」を提唱しています。

■丸谷博男先生コラム一覧

1.空気質と健康

2.湿気と健康

3.高気密高断熱住宅の落とし穴

4.住まいの壁体内と室内の健康、そして気密・透湿・透気をつくる

5.設備を活用して空気質をコントロールする仕組み

6.換気とはなんだろう

 

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