Column
空気と換気のコラム

井上 浩義 先生

2.PM2.5による健康被害について

2015/04/02

前回、PM2.5が非常に小さなものであると説明させて頂きました。私たちの身体にとっては、この「小さな」ことが問題なのです。小さなものは私たちの身体の中に入り込んでしまいます。


井上先生コラム2-2

 

今、PM2.5で最も問題になっているのは、(1)肺です。黄砂で知られ、現在のPM2.5問題の発端となった中国では、この30年間に肺がんが4.5倍に増えています。肺がんは寿命の延長に伴って発症が増えてきますから、必ずしもこの数字がPM2.5等の大気汚染だけに原因があるのではないかもしれません。しかし、少し古くなりますが2007年に世界銀行がまとめた統計によれば中国では大気汚染によって毎年75万人が肺の病気にかかっているそうです。私たちの肺はご存じのように、その通り道である気道や気管支に雑物(ゴミ)が入ってくると咳をすることで身体の外へ運び出してしまいます。しかし、PM2.5はその小ささ故に運び出されることなく肺の奥へと入り込んでしまいます。その結果、肺を作っている肺胞という空気の袋へ入り込んで、炎症などを起こしてしまうのです。

次に問題になっているのが(2)循環器(血管や心臓など)です。肺などから入り込んだPM2.5のうち固体のものは肺から血管へと入って行くことができます。血管に入ったPM2.5は血管を詰まらせたり、血管を硬くします。これが起こると高血圧、脳梗塞、心不全などを起こします。

次に問題になるのが(3)アレルギー疾患です。花粉症やハウスダストなどでお悩みの方も多いと思いますが、PM2.5は既にお持ちのアレルギー症状を悪化するという研究報告があります。PM2.5の濃度が高くなる冬から春にかけては、アレルギー症状も出やすい季節です。既にアレルギーをお持ちの方は、PM2.5にも注意を払っていく必要があります。

次に、私たちが怖いと思っている病気の一つ(4)がんの原因としてもPM2.5は研究されており、世界で100以上の研究論文がこれまでに出されています。特に、PM2.5が最も影響を及ぼす肺のがんの発症に影響しています。研究では既に肺の病気を持っているヒトあるいは乳児・幼児には十分な注意が必要であることが示唆されています。

続いて、大気にいつも触れている(5)眼の疾患です。眼の表面(角膜)にPM2.5が付着するとまばたきするたびに角膜がPM2.5という砥石を掛けられた状態となり角膜表面が削り取られます。また、PM2.5が涙の供給元である涙腺を詰まらせ、ドライアイになることも分かっています。

そして、最後に(6)消化器(胃や腸など)です。胃腸は肺と同様にPM2.5がそのまま侵入することができる臓器です。私たちの動物実験ではネズミにPM2.5を数週間食べさせ続けると、腸に穴が開き、下血が生じることが分かりました。

 

さて、日本のPM2.5の推移は図に示すように若干減少傾向にあります。


井上先生コラム2-1

 

しかし、未だに大気中の挙動や海外からの飛来量予測など分からないことが多く、今後もPM2.5が減少傾向を続けるかどうかは分かりません。次回はPM2.5がどこから発生するのかについて書かせて頂きます。

 
 


井上先生プロフィール

 

■井上浩義先生コラム一覧

1.大気汚染の歴史から現在の汚染状況

2.PM2.5による健康被害について

3.PM2.5の発生メカニズム、発生状況(今後も続くPM2.5)

4.地域で異なる発生源

5.PM2.5から身を守るために(マスクのような繊維状フィルタの効果は?)

6.PM2.5時事解説

 
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